じめじめした暑さ
梅雨が近いせいか雨が降ると蒸し暑くなってきた。
室内に居るとじんわりとした生温かい空気が体に纏わりついてくるかの様な感じがしてなんとも言えない不快な思いをさせてくれる。それが仕事場なら尚更不快度は増すばかりだ。
私の仕事は雑用係と大差はない。やれ準備だ、やれセッティングだと走り回らなければならず、仕事が終わる頃には、私が着ている服は水分を盛大に吸って濡れ雑巾の様になってしまっていた。
仕事場のロッカー室で濡れ雑巾になってしまった服を着替えながら、私はこの蒸し暑さを呪う。せめて不快感が増すだけの暑さは梅雨シーズンである6月まで勘弁してくれと……。
五月半ばでこの暑さだ、六月になって本格的な梅雨シーズンに入ると地獄を見る事になるであろう事は想像に難くない。
当然食べ物も痛み易くなるだろう。牛乳やヨーグルト等の乳製品も冷蔵庫にいれて置けば良いなんて甘い考えもできなくる。
今はまだ買い置きもできているが、梅雨シーズンは管理を怠るとカビにまみれになった食材を前に泣く事になりそうだ。
何もそこまで考え込む事ではないだろうと思う人も居るかもしれない。いや、確実に居るだろうが、私は一度だけ恐ろしい進化を獲得した牛乳を直に見た事がある。
それは私が学生の頃、梅雨真っ只中の日に現れたのであった。
学校より帰宅した私は喉の渇きを潤す為に普段と変わらぬ動作で冷蔵庫を開け、何か飲む物はないかと冷蔵庫の中を探し始めた。
ほどなくして牛乳パックを見つけ賞味期限を確認した後、蓋を開いたのだが、これが後の私にとてつもないトラウマを残す事になるであろうと誰が予測できただろうか。
まず蓋を開けた時に私を襲ったのは臭いだった。
あれは何と言い現わせばよいのか困難極まりない。私の人生で初めて嗅いだ恐ろしい臭いであった。
臭いの次に私を恐怖させたのは形である。
これはおかしいと蓋を大きく切り開き、中身を見た私はその場で固まってしまった。
賞味期限が10日以上残っているはずの牛乳が固形化し、振るとプルプルとゼリーの様な柔らかな弾力を持って揺れるのだ。
牛乳は液体だと認識していた私はショックを受けると同時に強烈なトラウマを負った。完膚無きほどに打ちのめされたのだ。
不幸にもこの日より牛乳を全く飲まなくなった私の背が伸びる事は無かったのはまた別の話。
更にこんなトラウマもある。
小学生の頃には級友達と掃除の時間に遊んでいたホウキ野球で、青や紫の毒々しい色に浸食されたパンを撃ち返されて顔面に直撃した事まであった。
カビパンが私の顔面に直撃した瞬間に級友が見せた表情は未だに色褪せず私の脳に焼き付いている。
今にして思えば幼い頃の私や級友達は、なぜカビパン一つであそこまで大はしゃぎ出来たのだろう? 子供特有の琴線にでも触れたのだろうか? 大人になった今となってはもう解く事ができない謎である。
そういった一連の騒動でカビがトラウマになってしまっているのか、梅雨シーズンに入ると買い置きを控え、冷凍食品以外は一食ですむ様に調整するのが習慣になってしまった。
おまけに支出が多いので家計簿までつける事になってしまった。
貧乏神と仲良くなれそうな私としては、早く梅雨が過ぎ去り真夏日が着てほしいと切実に祈るばかりである。
夏になれば夏になったで大きな出費があるのだが、それはまた別の問題。
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